スローモーション

先日購入した佐藤多佳子著『スローモーション』を読了。

スローモーション (ピュアフル文庫)

スローモーション (ピュアフル文庫)

佐藤多佳子さんの名前を初めて知ったのは、十数年前に読んだ『新潮現代童話館』というアンソロジーでした。そこに収められた作品のほとんどが少年少女を主人公としているのですが、正直、その多くは「大人の考えた子供像」を描いているという印象を持ったものです。その中で、現代に生きる少女を「リアルに」描いていると感じたのが、佐藤多佳子さんの『黄色い目の魚』でした。それ以来、好きな作家のひとりになったのです。
現在、『新潮現代童話館』は絶版となっているようですが、『黄色い目の魚』は、元の短編を膨らませた連作短編として単行本にまとめられています。
黄色い目の魚

黄色い目の魚

黄色い目の魚 (新潮文庫)

黄色い目の魚 (新潮文庫)

『スローモーション』は1993年に出版された初期の作品の文庫化です。私はオリジナル版刊行時にはこの作品を知らず、今回の文庫化で初めて読むことができました。初期作品ゆえ、『しゃべれども しゃべれども』などの近作に比べると、作品に粗さは感じます。しかし、そのザラついたような粗さが、短編版『黄色い目の魚』を最初に読んだときと同じように、奇妙に私を惹きつけるのです。
どこか欠けている部分を抱えた不器用な登場人物たちの姿は、ちょっとだらしなくて、もどかしくて。でも、とても愛しい。そんな愛すべき小説です。