「ふたりのヒロイン」の系譜

映画『王様ゲーム』は、ふたりのヒロインを中心として物語が進んでいきます。
異常な状況に戸惑いつつも真相にたどりつこうとする本多智恵美と、クールに状況を見つめる不思議な少女・岩村莉愛のふたりです。
この「ふたりのヒロイン」という構図は、鶴田法男監督のこれまでの作品のいくつかにも共通して見られる要素です。


まず、オリジナルビデオ作品としてリリースされた1996年の『亡霊学級』。つのだじろうさんの同名恐怖漫画の映像化作品です。原作は1話ごとに舞台の異なる連作短編的な作品ですが、鶴田監督の映像版は原作のエピソードを巧みに活かしつつ、オリジナルの長編ストーリーとなっています。
主人公は宮澤寿梨さんが演じる女子高生・ユリ。彼女と、親友のアヤのふたりが体験していく恐怖が描かれていきます。
『亡霊学級』以前はリアルな実話怪談系の作品が多かった鶴田監督が、それまでとは違ったテイストで作られた作品で「図書館」が重要な場所として登場するなど、ふたりのヒロインという部分以外にも『王様ゲーム』との共通点を見つけることもできます。映画『王様ゲーム』の原点とも言える作品だと思います。


次に、伊藤潤二さんのコミックを原作とした2001年の劇場公開作品『案山子 -KAKASHI-』。この映画のヒロインは、野波麻帆さん演じるかおると、柴咲コウさんが演じる泉のふたり。異常な状況に「巻き込まれていく」ヒロインと、その異常な状況の鍵を握るヒロイン。そのふたりの対比が注目です。また、この「巻き込まれていく」ヒロインと「鍵を握る」ヒロインという視点で『王様ゲーム』を観てみると面白いのではないでしょうか。


そして、楳図かずおさんの名作漫画を映画化した2008年公開の『おろち』。ある宿命ゆえに愛憎を繰り広げる一草と理沙の門前姉妹と、姉妹を見つめる美少女・おろち。メインのヒロインが3人登場しますが、対立する姉妹、おろちと一草あるいは理沙の関係と、3通りの「ふたりのヒロイン」という構図で観ることもできると思います。超越的な位置から状況を見るおろちの姿には『王様ゲーム』の莉愛を重ねることもできるかもしれません。
『おろち』と2004年公開の『予言』は「心霊ではないものがもたらす恐怖」に鶴田監督がアプローチした作品です。映画『王様ゲーム』も、この2作と同じ流れの上にある作品と見ることができるでしょう。


実は、映画『王様ゲーム』は、鶴田監督の参加以前に脚本が先行して進められていた作品なのですが、それが意外に思えるほど、これまでの鶴田監督の作品から自然に連なる流れを感じることのできる作品です。映画『王様ゲーム』は、企画と監督との幸福な出会いに恵まれた作品であったと思います。
映画『王様ゲーム』で初めて鶴田監督の作品をご覧になった方は、ぜひここで挙げた作品やほかの鶴田監督の作品をご覧になっていただき、映画『王様ゲーム』に至る流れを感じていただければと思います。
現在新品での映像ソフト入手が難しい作品もありますが、レンタルビデオ店を探すと在庫しているお店もけっこう見つかると思います。



さらに「ふたりのヒロイン」の系譜はまだ続きます。
明けて2012年2月18日、鶴田監督の最新作『POV〜呪われたフィルム〜』が公開されます。志田未来さんと川口春奈さんという現在大活躍中の若手女優ふたりがヒロインをつとめ、彼女たちが「実際に体験した」恐怖がスクリーンで公開されます。
王様ゲーム』とは異なったアプローチによるホラー『POV〜呪われたフィルム〜』は、鶴田監督作品の究極のかたちと言えるかもしれません。この作品にもご注目ください。