『すみれ人形』

これまでに『呪怨』の清水崇監督はじめ、多くの映画人を輩出してきた映画美学校。そこからまた新たな才能が登場します。新鋭・金子雅和監督が同学校の終了制作として監督した初長編作『すみれ人形』が1月26日から渋谷アップリンクXにてレイトショー公開されます。 →公式サイト
『すみれ人形』は、行方不明となった妹を探す腹話術師の男を主人公にした幻想譚。映画はリアリティのある現代の風景で幕を開けつつ、妹の失踪とともに、昭和初期のような不思議な異空間へと移行していきます。世界がガラッと変わっているのにもかかわらず、一貫した空気が漂っており、1本の作品として違和感なく観られるのが不思議です。
この映画は、愛する者を失い、狂った男たちの物語です。そこにあるのは、美しく透明な狂気。これほどまでに美しく透明な狂気を描いた作品を、私は知りません。
今後、その活躍が注目されるであろう新鋭のデビュー作、どうぞおみのがしなく。

2007年作品雑感[劇場作品編]

アディクトの優劣感

劇場作品では、2007年末に近くなってから観たこの作品について。
アンダーグラウンドのカルチャーにスポットを当て、ドラッグなどの“刺激”を求めていく若者たちを作品。ストーリーの内容もですが、その作られ方もまた刺激的なものになっています。
この作品は、多くの部分が「デジタル・フォトアニメーション=デフォメ」と呼ばれる新たな手法によって作られています。これは、高画質のデジタルスチルカメラで連続撮影した静止画像に加工を施し、アニメーション的な映像に仕上げたものです。現在高画質のデジタルスチルカメラの解像度は長辺で4000ピクセル以上。ハイビジョン映像が1920×1080ピクセルですから、単純に考えると4倍以上の情報量を持っていることになります。もちろんその映像をそのまま上映することはできないので、変換されて最終的には通常の動画同様の解像度になってはいるはずですが、それでも元の画像が高画質だけに、仕上がった映像は通常の映像とは違った質感を持っています。背景のボケ味もスチルカメラの特性が活かされていると思います。
そしてこの作品に感じたのは、これが新たな映像表現の可能性を示唆する作品になっているのではないか、ということです。現在、ビデオカメラや動画編集ソフトが廉価になっているとはいえ、それでも映像作品を作るというのはまだ敷居が高いもののはずです。でも、この作品は動画ではなく静止画像と音というかたちであっても映画として成立するというのを示しています(もちろんそれは優れたスタッフ、キャストの存在によるものですが)。静止画像に音を加える、という手法ならば、より多くの人が「ああ、自分でもこういう作品を作ってみようかな」と乗り出せるのではないでしょうか。デジタルスチルカメラを用いた映像作品を、Youtubeなどの動画投稿サイトで発表する。そんな、個人レベルでもできる映像作品の発表の方向性もあり得ると思いました。
現在、渋谷Q-AXで公開されている本作、1月中旬まで公開は続くようです。公開期間中には、DJが生でBGMをプレイするという意欲的な試みもされているようです。詳しくは公式サイトで。

BL系映画

もうひとつ、2007年に印象に残ったのが、男性同士の恋愛を描いたボーイズラブ(BL)系の作品が多く製作・公開されたことです*1。もうずいぶん前から出版界ではBLがジャンルのひとつとして確固たる位置を占めていましたが、映像のフィールドでもこういう作品が出てくるようになったんだ、と思ったものでした。
作品によって、BLと意識しなければ青春物としても観られるような作品、ストレートにBLを扱った作品、といろいろなタイプのものがあり、まだ若いジャンルだけに作り手によってさまざまなアプローチがあることを感じさせます。多くの作品が作られたのは単に2007年の流行という可能性もありますが、出版界での定着振りを考えれば、映像でも今後コンスタントに作品が作られていくのではないかと思います。
こういう作品のファン層の方々というのは、割と厳しい批評眼をお持ちの方が多いのではないかと思いますし、作り手もさまざまな趣向を凝らしていく、面白いジャンルになっていくのでは、と思っています。

*1:ビデオ作品では以前からあったのかもしれませんが、一般劇場公開作は2007年になってから急に増えたはず

2007年作品雑感[テレビシリーズ編]

ULTRASEVEN X

10月から1クール深夜枠で放送。かつてのヒーローのキャラクターを使い、「1984」を思い出させるような“監視された社会の物語”をハードボイルドタッチで描くというのは面白いアプローチでした。従来のウルトラシリーズでは異色回とされるようなトーンで全話をとおしてしまうという大胆な試みができたのは、深夜枠ゆえの自由さでしょうか。
過去の作品をこのようなかたちで復活させることには批判的な意見もあると思いますが、元の作品はもう確固として揺るがないほどの大きな存在。このくらいの変化球は大いにありだと思います。
1月には早くもDVDがリリースとなるようです。

ULTRASEVEN X Vol.1 プレミアム・エディション [DVD]

ULTRASEVEN X Vol.1 プレミアム・エディション [DVD]

キューティーハニー THE LIVE』

同じく10月から始まり、こちらは現在も放送中のシリーズ。現在ちょうど折り返し点あたりになったのかな?
実はスタート前はあまり期待していなかったのですが、第1話のテンポ良く緩急巧みな演出にグッと引きこまれました。
シリアスでハードな部分とコメディっぽい部分が実にバランスよく配合されています。永井豪のコミック版に忠実なわけではありませんが、そのコメディとハードな部分の共存は永井作品のテイストに近いように感じます。
シリーズ構成もつとめている井上敏樹氏の人物造形には、氏のほかの作品とも共通する独特のいやらしさがあるんですけど、このシリーズではそれが効果的に働いている感じです。それからエピソードの中で笑いのポイントとしてゲスト的に出てきたのかな、と思っていた人物がその後のエピソードで重要なキャラクターになったりして、その構成にも感心させられました。
総監督・横山誠*1、脚本・シリーズ構成・井上敏樹、キャラクターデザイン・出渕裕、さらに演出に参加している田崎竜太というスタッフは映画『仮面ライダー THE NEXT』と重なるスタッフ陣。ここ数回の『ハニー』の展開には映画でのダブルライダー共演に通じるカッコ良さも感じたりしておりまして、今後の展開も楽しみにしています。

電脳コイル

2007年のテレビ作品で一番印象に残ったのがこれ。NHK教育テレビで5月から11月まで放送されたアニメシリーズです。
とにかく第1話を観て、こんなふうに日本的風景の中でサイバーパンクを描くってことが可能だったのかと目からウロコが落ちまくり。
現実とネットとの対比としての「あっち側」に、現世に対する異界としての「あっち側」を重ね合わせているのにも唸らされました。ネットという技術が当たり前のように使われるようになった結果、本来そのような技術と対極にあるはずの「呪い」といった“非科学的な”事象と結びついてとらえられていく。それはもしかしたら鋭い近未来予測になっているのかもしれません。本来の意味とはやや異なってくるかもしれませんが、「充分に発達した技術は魔法と見分けが付かない」というクラークの言葉を思い出しました。
また、このような題材を扱った作品では「バーチャルはしょせん虚構」的な描き方がされることが少なくない中、「バーチャルであってもそこに感じた気持ちは本物」というメッセージを言ってくれたのは爽快でした。2007年という現在に作られる作品であることを象徴していたように思います。
終盤の数話において説明台詞過多な印象があったのがやや残念ではありましたが、少女・少年の成長を軸とした良質のSFジュブナイルでありました。
第2話放送前に1話を再放送したり、本放送中に数話まとめて再放送をおこなったりという編成もありがたかったです。これによって、ネットや口コミでの評判を聞いた人が追いつけやすくなるんですよね。実際、私もmixiで感想を書いたところ、再放送で追いついて最終回まで見続けたマイミクさんがいたりします(笑)。

*1:仮面ライダー THE FIRST』『仮面ライダー THE NEXT』にはアクション監督として参加

今年も月刊に近いペースでの更新になってしまいました。もっと高い頻度で更新したいと思ってはいるのですが。
2007年も終わりということで、いままで書いていなかった映像作品についていくつかまとめて書いてみます。

石井聰亙監督DVDボックス

1995年に公開された石井聰亙監督の『水の中の八月』は、九州を舞台に、日本の風土に根ざした幻想的な作品となっており、私の好きな映画ランキングの上位に入る作品です。
数年前、石井聰亙監督の公式サイトをみたところ、作品を管理していた会社の消滅などで現在は上映不可となっているのを知り、ショックを受けました。ソフトもリリースされておらず(私は当時発売になったレーザーディスクを所有しているのですが)、もう鑑賞するのは難しい作品になってしまったのかと残念に思っていましたが、このほど発売された石井監督のDVDボックス「石井聰亙作品集DVD-BOXII」の中にデジタルリマスター版として収録されています。

石井聰亙作品集 DVD-BOX II ~PSYCHEDELIC YEARS~

石井聰亙作品集 DVD-BOX II ~PSYCHEDELIC YEARS~

私はまだ購入できていないのですが、特典映像として初公開となる『水の中の八月』メイキングも収録されているそうで、楽しみです。
さらに、このDVDボックス発売を記念して、渋谷ユーロスペースにて1月19日から石井監督の特集上映が開催されます。1月26日には『水の中の八月』が上映されるそうで、都合がつけば十数年ぶりにあの独特な透明感に溢れた作品を劇場のスクリーンで体験したいと思っています。