『テニスの王子様』

先日より公開されている実写版『テニスの王子様』、いい意味で予想を裏切られ実に楽しめる作品になっていました。
実写化ということで原作をリアルな方向にアレンジするのかと思っていましたが、コミックの世界をそのままに再現しており、テニスシーンでの“秘技”の数々もVFXを駆使して表現されています。原作をご存知の方ならおわかりのように、あの秘技ってのは忠実に再現すればかえってギャグのように見えてしまう可能性が大です。しかしこの映画でテニスシーンが違和感なく見えるのは、作品全体に綿密な計算が施されているからです。
まず、映画が始まってばかりの、主人公・リョーマアメリカから日本にやってくるシーン。何人もの外国人客が到着ゲートから出てくる中、大柄の黒人男性の後ろに隠れるようにリョーマが登場します。このシーンは、作品中で何度も言及されるリョーマの体の小ささを大柄の男性との対比で強調しているとともに、「外国人でごったがえす空港」という、決してリアルではない記号的な表現をすることで、リアルな現実世界とは異なった作品世界に観客を誘っているのです。
さらに、岸谷五朗氏が演じるリョーマの父・南次郎が重要な役割を果たしています。岸谷氏の演技も含め、南次郎のキャラクターまさにマンガ的な、リアルではないキャラクターとなっています。実はリョーマはじめ、この映画のほかの登場人物もみんな相当にマンガ的なキャラではあります。しかし、南次郎が特に際立ってマンガ的であるため、それと比べると相対的に現実味が感じられるのです。
そうやって、マンガ的な世界に観客が慣れてきたところでいよいよ“秘技”が登場するわけです。もし、映画の冒頭に近い部分で秘技が出てきたなら「ありえねー!」となってしまうところですが、すでにこの作品の世界にどっぷり入っているので違和感なく見えますし、さらにそこに感動すら感じるのです。とはいえ、リョーマの「みんなやりすぎだよ」という作品へのセルフツッコミ的なセリフにも共感するところはあるのですけどね(笑)。
リョーマを演じる本郷奏多くんは、以前の『HINOKIO』でも演技がうまいなあと思っていましたが、今回のクールな佇まいは見事。他人と打ち解けないクールさを彼が充分に表現している故に、クライマックスのテニスシーンで、リョーマなりのやり方で「仲間である」ことを自ら周りに示してみせるシーンが感動的に見えます。本郷くん以外も、手塚部長役の城田優くんはじめ俳優陣がみな個性を充分に発揮しているのもこの作品の大きな魅力です。
決して熱血ではないけれど、冷めているわけでもない、クールに熱いスポーツ青春映画に仕上がっています。